SSH 他校の事例と「3年後」の行方

 戸山高校がSSH,スーパーサイエンスハイスクールに指定されたニュースは、4月の城北会HPに掲載されました。 戸山高校HPにはSSHに関する詳細な情報が逐次掲載されています。
 ところで、7月9日付日本経済新聞夕刊は、3年目を迎えたスーパーサイエンスハイスクール(SSH)について、「理数系重点高指定3年目 先端実験 学ぶ意欲刺激」と題する記事を掲載しました。 今年度からSSHに指定された母校の取り組みに関心のある城北会会員諸兄姉のために、その要約をお伝えします。

1. 今年が指定3年目の群馬県立高崎高校の場合

 高崎高校では、毎週木曜日午後、三年生の1クラスが自らテーマを決めた「課題研究」に取組んでいる。 6月のある木曜日、11グループに分かれ実験を行った。 三階の教室では、厚紙で長さ3bの風洞を作った。スイッチを入れるとファンが回り中を勢いよく風が流れる。中に固定した卓球の球を回転させ、球の重さの変化を調べる。 野球の変化球と同じ原理で、球の回転方向によって沈んで重くなったり、浮き上がって軽くなったりする。
「この実験は流体力学の分野。それを薬学と結び付けたい」と発案者の生徒(18)は実験の意図を話す。「血液は流体力学に関係していて,薬の形状を変えると、体の部位で違う血流の速度に合わせた効果的な薬ができる」。 将来は生命科学か薬学を研究したいと目を輝かせる。

 同校の場合、該当する授業は希望する生徒だけが対象。一年生は研究施設の高圧室で深海を疑似体験する、ロボットを作るなど、興味を引き出す実験や体験が中心。
 その後も研究所などから講師を招き最先端科学の入り口をのぞいてみる。 今年の二年生は米航空宇宙局(NASA)への研修旅行もある。
 「対象の授業を受けることで、将来の目標がはっきりした。」と話す生徒は多い。
 同校の昨年度のアンケートでも「将来志向する職業が決まっている」または「ほぼ決まっている」と回答した生徒の割合は、対象クラスが一般クラスより一年生で11ポイント、二年では23ポイントも高かった。
 課題研究のテーマと将来の目標は必ずしも重ならないが、「職業選択の祭、課題研究などの影響は大きかった」という生徒は多い。 別のグループの生徒(18)も、一年の授業で「脳」の話を聞き、脳から手足に伝わる電気信号に興味を持った」と照準をほぼ定めた。
 担当教諭(48)は「生徒が勉強する目的を考えるようになり意欲が高まった」と分析。アンケートでも、平日に三時間以上家庭学習する二年生は、一般クラスが20%で対象クラスは48%。 理由も「希望大学に入るため」が47%を占める一般クラスに対し、対象クラスは「将来の職業に向けて」が38%と多かった。

2. 三年目と三年後の取組みについて

 指定期間の三年間は合わせて五千万円の予算がつくので、高価な備品の購入や外部からの専門家招聘もできるが、指定が切れると予算はゼロになる。 学習指導要領に沿わない授業編成も認められなくなるかも知れないなど、三年目に入った指定校は、不安をいだいている。 文部科学省は「成果が出ていれば延長することも」と言うが、その成果を評価する基準も「まだ、これから…」とし、学校側は先行きの不透明さに不安を感じている。

 SSH評価協力者の一人、秋山東海大学教授は、次のように指摘している:
@ 指定を受けた高校は活気づき、生徒・教師ともども最先端科学に触れ、理数科教育を見直すよい機会になった。 しかし「我が校を良くしよう」との意識で止まっている例が多い。
A 次の教育課程の改定に必要な資料となり、成果を国民全体に広げられるようにならなければ巨費を投じた意味がない。 指定三年目の高校は、成功例だけでなく失敗例も広めて、同じ轍を踏ませない義務がある。 失敗=マイナス評価ではない。
B 指定が切れても高い意識と水準を維持できるか否かは、教師自身がこの期間に何を身につけたかがカギ。 予算がなくてもできることを教師は示して欲しい。ただ、わずかでも予算はあった方がよい。


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