会場全景 講演中の船曳氏
平成21年9月19日(土)戸山高校で、『医療の危機は日本の危機 ―― 皆が真剣に考える時です ―― 』という演題で、藤田保健衛生大学名誉学長、医学博士船曵孝彦氏(昭29)による公開講座が、生徒・保護者・同窓生・新宿区民等を対象に実施されました。
医学をはじめ広く医療行政にも極めて見識の高い船曵孝彦氏の詳細にわたる講演によって、わが国の医療の現状の危機と今後に向けてのあるべき在り方について、副題の通り、受講者の"皆が真剣に考える時"を持つことができました。
先ず、医療危機の発端として、医療費削減と、医療不信につながる医療事故に対する警察の介入と、扇動的でエスカレートする報道を挙げられました。
次に、その具体的な医療危機の実態として、(1)医師不足、患者のたらい回し、出産難民、(2)公立病院縮小や閉鎖、(3)医師の負担、勤務医の金銭収支と労働時間の悪化、などに起因して医療事故が起きやすく、医療不信に繋がると述べられました。
プロジェクター 城北会にて
さらに、医療の現状についてわが国と諸外国との比較にふれ、(1)米国との医療保険制度の比較、(2)先進諸国との一人あたりの年間総医療費比較、(3)欧米との社会保障費のGDP比の比較、(4)米との病院勤務の医師・看護師・栄養士の数の比較、(5)米との1病床に対する医師数の比較、などを例に挙げながらいずれも日本が劣ることを示され、それでも世界一の医療レベルを保っていることを示されました。
また、行政の医療に対する社会的責任に言及され、国民に対する行政の責務が果たされていないこと、医療従事者の現場責任は診療そのものであることが指摘されました。
『崖っぷちの医療』 (悠飛社 1,680円)
以上の矛盾する医療行政の結果、(1)病院機能の不全(医療スタッフ不足、病院の偏在、公立病院の多くが赤字、(2)偏る専門医(産科、外科不足)、(3)利益追求(株式会社の参入の問題)、(4)医療難民(圧政による病床削減)、(5)混合診療が自由化すれば好ましいといえないような薬品の横行する危険性(高価なサプリメントの横行と同様)を挙げられました。
まさに、わが国の医療は、崖っぷちから崩壊しつつあり、これらの課題解決にあたっての今後の医療の在り方として、医師と患者の心が荒まないように、行政、並びに、医療と医療機関、医科系大学、警察と報道などの全ての視点での改善が求められるとの提言がありました。
医療行政は現実に我が身に関わっており、国民一人ひとりが常に関心を持ち、真剣に考えることの必要性を痛感させられました。
付記: 次回の公開講座は、新春の1月23日(土)、講師は元会計検査院長金子晃氏(昭31)を講師に迎えて実施する予定です。このホームページでも事前に掲載します。皆さま方のご受講をお待ちしております。
以上