先生列伝(59)草川 先生  戸山高校新聞 第89号 1962年1月29日
 「数学の勉強は基本から 郷土愛の精神をもとう」


1963年卒業アルバム
    
1965年卒業アルバム

 「僕はもともと数学が好きだったな。エッなぜかって?つまりむずかしい問題を寸分も間違わずに解き終わったときのあの満足感ね、あれにとりつかれたんですよ。それに数学を教わった先生の影響も受けたんです。その先生とは今でも交際していますけどね。気持ちがあったんだね。それからまだある。僕の学校時代は軍国主義がはなやかなりしころだったから、『軍の学校』へ入学することがなによりも重んぜられたんです。そのためにも数学をやらなければならなかった」。たばこをすいながら、静かな放課後の教室でたんたんとゆっくりと話される。時々立って吸い殻を教室の隅のバケツにすてて、また話し、捨てて、話し・・・・

 先生は幼年時代を満州で過ごされた。そのためずいぶんひどい経験をされた。とにかく学校へは行かれなかったそうだ。毎日鉄砲かつぎ、戦車に飛び込む術などの訓練。

 話がすすんできたころ、先生はこうおっしゃった。「いったい今の若い人は愛国心についてどう思っているのかね。僕は常に愛国心を持っていることは必要だと思うんだが。生活や行動に直接つながりますからね。こう言っても戦時中の国粋主義的なものを指すんでなくて、郷土愛とか、同胞愛ですね。日本古来の文化遺産などに誇りを持ってよいと思います。ソ連の数学の教科書をみると“これはソ連人の発見した定理だ”といちいちしるされています。日本の現状はどう見るべきなのでしょうか。日本の古からの香りが消えつつあるようです。そして悪い意味でアメリカナイズされたものがはびこりつつあります。今の若い人たちは純日本的な精神や先人の遺物を守ってゆかなければならないと思うんですが」

 先生は戸山に来られてから一年にもなっていない。新鮮なところで戸山の印象を聞いてみた。「目的のない勉強をしている人が多いのではないでしょうかね。理科方面に進む人は数学は必要だが、文科方面に進む人にとってはまるっきり生活に結びつかないからすぐ忘れてしまうんでしょ。その点よく考えて勉強しないといけないですね。それからまだあります。『こんな問題が解けなかったらしょうがないだろ』と言ったら『できないものはしょうがない』と答えた生徒がいたが、どうかしている。僕らの頃はできなかったら恥だと思ってやったもんだ。また、戸山の生徒は規律がないですね。(このへんはイタイところだ)。日本の教育は戦後になって改革されたがいまだに反動の続きっぱなしという感じがしますね。今は戦後じゃないのだからこのへんで新しい教育の形ができるべきですよ」最後に数学の不得手な人のために(筆者も含む)数学の勉強のし方を聞いてみた。

 「生徒は問題を解くことばかりに気をとられて本来の道を忘れてしまっている。つまり、根本にもどって考えることをしないんです。定理・公理を頭にいれてやらないとだめなんですがね。幾何はそういう方法で勉強しているんです。だからあまりおもしろくないでしょう。しかしそうすることによって一歩進んだ解き方が見つかるんです」

草川 秀雄 先生 数学 戸山高校在職 1961〜67



連絡・お問い合わせは城北会事務局へどうぞ。e-mail:johoku@toyamaob.org